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【我は放つ】「魔術士オーフェン」の呪文の元ネタ、RPG「ダイナソア」を知ろう【光の白刃】

「我は放つ光の白刃」など、「オーフェン」に登場する呪文は、日本ファルコムRPG「ダイナソア」のパクリ――。「オーフェン」ファンなら、一度は耳にしたことがある疑惑だ。

オーフェン」シリーズの呪文のカッコよさ


秋田禎信の「魔術士オーフェン」シリーズ(1994-)は、90年代後半に一世を風靡したファンタジーラノベ。累計で1000万部を売り上げ、神坂一の「スレイヤーズ」と共にファンタジア文庫の看板を担った。2003年に一度完結したけど、近年になっても別の出版社で新装版と新シリーズ*1が刊行されたり、原作準拠のコミカライズが始まったり。いまだになにかと動きが絶えないことからも、人気のほどが伺える。



本作で人間の魔術士が使う「音声魔術」は、術者の声が届く範囲にのみ効果を発揮する。呪文はあくまで媒介であり、逆にゆえばその内容はなんでもいい。けどあんまり支離滅裂なことを叫んで集中を失ってもまずいので、主人公のオーフェンは、我は~から始まる「魔術の効果を端的に表現」した呪文を唱えることを好んだ……というのが、作中の設定。中でも、「我は放つ光の白刃」――他の魔術士は同じ魔術でも「光よ」ときわめてシンプルな呪文を使ったりする――をオーフェンは多用していた。


なお、作中ではオーフェン氏のオリジナルとされてたこの呪文、シリーズが進んでいくと同じ「我は~」系の呪文を使う兄弟子コルゴンが登場し、主人公氏は彼のそれを真似たのではないか、ともファンの間では推測されている。


で、この我は~から始まる呪文群の元ネタとゆわれてるのが、1990年にPCゲームとして発売された「ダイナソア」というわけだ。


ダイナソア 〜リザレクション〜

パクリ疑惑について


以下に、「ダイナソア」の我は~から始まる呪文と、それに似た? 「オーフェン」の呪文を並べてみる。

ダイナソアの呪文 オーフェンの呪文
我は放つ光の白刃 我は放つ光の白刃
我は見る死の舞姫 我は見る混沌の姫
我は指す冥府の王 我が左手に冥府の王(像)
我は与う暗黒の剣 我は与う巨人の幸い
我は創る火炎の弾 -
我は渡す月の腕輪 -
我は聴く闇の羽音 -


よりによって光の白刃が一番のドンピシャ。効果の方は、オーフェンでは光熱波であるのに対してダイナソアでは魔力の刃を放つとされてて、微妙に違うんだけど……。


作中で主にこの系統を使うのは、ランディという自称美形で女たらしの魔法使い。オーフェンよりは「BASTARD!!」のダーク・シュナイダーを彷彿とさせる俺様キャラ*2の彼に、我は~から始まる呪文はぴったりだった。ただ、ランディはオーフェンと違いそれ以外の呪文も使うし、逆にただの雑魚モンスターが我は~系の呪文を使ったりもする。


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私が初めてこのことに触れたのがいつだったか。ネット経由だったのは覚えてるので、少なくとも2001年以降なのは確かだ。いたいけな(笑)信者だった私がこれを知った時、ショック……よりも驚きが勝った。


枝葉末節の問題じゃない。「我は放つ光の白刃」は、作品の代名詞だった。アニメ版では次回予告で毎回登場人物が〆にこの呪文を叫んでたし、書評家の三村美衣は『ライトノベル☆めった斬り!!』で

デビュー作の『ひとつ火の粉の雪の中』から一貫して、秋田禎信の魅力の一端はナルシスティックな文章表現にある。ユーモアと勢いを重視した本書では、その特徴は極力抑えられているが、「我は砕く原子の静寂!」、「我は踊る天の楼閣!」といった音声呪法のカッコ良さは、この作家ならではだろう。


と評した。今でも、内容は知らないけどこの呪文だけは知ってる、という人は多い。「オーフェン」のパロディとして「我は放つ~」が使われてるアニメやラノベも多い*3。それが他所様からの借り物だなんて思わないじゃないですか。


この件が過去に大きく問題になったという話は聞いたことがない。公にちゃんとした声明が出たこともないはずだ。ただ、ゲーム業界とラノベ業界という距離の近さ。双方の当事者は比較的早い段階で事態を把握してたんじゃないかとは思う。「ダイナソア」のスタッフだったイラストレーターの田中久仁彦は、「オーフェン」旧作刊行当時、ファンタジア文庫で仕事してるしね。それで今に至るも動きがない、というのはまあそういうことなのかなと。


近年になって、日本ファルコムの公式Twitterアカウントがこの件をほのめかしたこともあった。



ゲーム会社を擬人化したRPG超次元ゲイムネプテューヌ」で、「ファルコムちゃん」が「我は放つ光の白刃」の呪文名を出したことに起因するpostみたいだ。また、秋田も同じくtwitterで「あの呪文は書いた時は自分が考えたものだと思い込んでた」と発言したことがあったと思う。



2012年にファルコムの看板ゲーム「英雄伝説」のノベライズが、ファンタジア文庫の姉妹レーベル、富士見ドラゴンブックから刊行された時は、「これをもって法人間では手打ちってことで(自分の中で)納得していいでしょうか」とも思ったけど。この時既に「オーフェン」の各種権利は富士見からTOブックスに移っていたので、ちょっと弱いかなあとも思ったり。


実は「オーフェン」作中では、2巻目の「我が命にしたがえ機械」で、ちょっと不自然な形で「ダイナソア」という単語が登場してたりする。

「お前が今アタマん中で想像している『ドラゴン』てのを当ててみせようか? でっかくて、うろこがあって、羽があって、火を吹いて、しかも金銀財宝を腹の下に敷いて満足顔のトカゲの王様だ。ちょうど……こんなような」
と言ってオーフェンは、歩きながら気楽に胸元からドラゴンのペンダントを取り出した。彼は、この街に入ってきたときからこの紋章を服の下に隠していたのだが……
「……違うんですか?」
「おおむね、違う。この紋章に使われているのは、あくまで力の象徴としてのドラゴンだし、お前が想像してるのは正確には単なる大型爬虫類――ダイナソアだ。しかもダイナソアは別に火は吐かないし、金銀財宝にも興味ない。ただのトカゲだ」


ゲームの方のタイトルの由来は、DINOSAUR⇒恐竜⇒繁栄と衰退、古いもの、滅びゆくもの、という解釈が一般的であるようだ。上記の通り、「オーフェン」でも「ダイナソア」とは読者にとっての既成概念としてのドラゴン、古いものの象徴であるのだけど、してみるとこれはゲームのほうから受け継いだものだったりするんだろうか。


また「オーフェン」では大型爬虫類である「ダイナソア」の例えとして、「剣にからみついた一本足ドラゴンの紋章」が挙げられている。この一本足のドラゴンは、作品世界の創生神話にある「唯一の真なるドラゴン」をモデルとしていて、他の魔術を使うドラゴン種族*4とは別格の存在である。一連のパクリ疑惑を知ってると、この「唯一の真なる」という言葉が、なんだか意味深なものに思えてしまった。


……パクリとオマージュの境界線や秋田の意図、当事者間で話が済んでるかどうかはともかく、一連の呪文が「ダイナソア」を元ネタにしてることは多分確実だろう。これに関しては反論の余地はないし、「我は放つ~」とゆえば「オーフェン」っていう現状を鑑みれば、「ダイナソア」ファンが怒るのも無理ないなーとは思ってる*5。失望した、これでオーフェンも秋田も見限ったって人もいるかもしれない。それだけのことではあるとは思う。私も、不信感が生まれなかったとゆったら嘘になる。


でも、他人様はともかく、結局のところ自分は「呪文がかっこいい」以外にもたくさんの魅力を「オーフェン」ひいては秋田作品から見出してしまった。だから中高生の頃ほどの熱心さはなくなってしまったにせよ、現在も著者を追っかけってる。


なんで今になってこんな話を蒸し返したかというと、最近、「ダイナソア」の実物に触れる機会に恵まれたからだ。私がプレイしたのは、2000年に発売されたリメイク版「ダイナソアリザレクション」のDL版。VISTA対応版と銘打ってたけど、win10搭載機でも問題なくプレイできた。

実際に「ダイナソア」をプレイして

いかなる戦いからも生還し、味方した軍勢は必ず敗北するという伝説的な傭兵「アッシュ」。しかし平和が訪れた今、彼を必要とする戦場はもはやない。戦いを失った彼は、やがて白い蝶に導かれるようにして「ザムハン」の地へと辿り着く。黄泉と現世の狭間、悲劇は狂気と混沌を生み出し、終わりのない怨嗟が古き妄念となって蠢く世界。与えられるは混乱、そして破滅のみ。


本作には、魔王を倒すとか一攫千金を夢見るといった大きな目的はない。かといって、ゲームとして「自由度」が高いわけでもない。プレイヤーは古城を、薄暗い森の中を、神殿の廃墟を、わけがわからないまま、何者かに突き動かされるようにして彷徨う。使命感とか正義感からではなく、そうせざるをえないから。……ストーリーが進むにつれ、そこは徐々に変わってくるのだけど。


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この作品を形容するにあたっては、シリアスだ、陰惨だ、暗い、といった言葉がよく使われるけど、私には、全編が霧の中に包まれているような雰囲気に、「ICO」みたいだなあと感じた。


曖昧模糊とした雰囲気とは裏腹に、登場人物はいずれも人間臭い奴ばかり。「灰を撒く者」と恐れられるアッシュ、前述したランディ、臆病な吟遊詩人のヒース、そして暗黒神官のルオンなどなど……。パーティメンバーは固い絆で結ばれてるわけではなく、特に裏シナリオでは、常に皮肉と当てこすりが飛び交ってるような状態だ。リメイク版で追加された裏アナザーエンドと呼ばれる第3の結末では、裏切りと策謀の果てに、主人公一人でラスボスに挑む羽目になったりもする。


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オーフェン」というか秋田禎信は翻訳小説の影響を受けた文体が特徴だけど、「ダイナソア」の皮肉が利いた会話や武器防具呪文などを説明するフレーバーテキストには、なるほど確かに「我は放つ光の白刃」はこのゲーム由来だ、と納得させられるものがあった。


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パクリやオマージュについての法的なことは私の手に負えることではないし、倫理的なことに対する考え方は人それぞれだろう。確実に言えるのは、好きな作品の元ネタを探し、できれば実際に遊んでみるというのは、今も昔も変わらないマストなオタクムーヴである、ということだ。私が「オーフェン」にハマってから約20年。「ダイナソア」のことを知ってから15年くらい。随分遅くなってしまったけれど、こうして元ネタに触れることができてよかった。


 ダイナソア 〜リザレクション〜 - DMM.com

*1:全10巻で完結済み

*2:でも実はお人好し

*3:その度に、や、やめてーそれオーフェンのオリジナルじゃないから! ファンとして恥ずかしいから!って七転八倒してる

*4:オーフェン世界では魔術を使う存在=ドラゴンとされていて、猫やサイや馬のドラゴンがいる

*5:幸か不幸かそういう人にあんまし遭遇したことないですけど