周回遅れの諸々

90年代にオタクとしての青春を過ごした人のブログです

百合漫画「青い花」のAKB主演映画化企画と、志村貴子的なもののAKBや乃木坂への影響

二〇〇七年頃からAKB48のミュージックビデオをいくつか作るようになっていたのですが、そこから発展してAKB主演の映画を作ろうという企画がもちあがった時期があって、原作にできるものはないかと少女マンガをいろいろ読み漁っていたときに志村さんの『青い花』に出会ったんです。


えっ、これってみんな知ってたの? 私が志村作品からちょっと離れてた間に既に出てた情報だったりする? 

幻と消えた「青い花」の実写映画


青い花」は志村貴子の代表作。高校生になったふみちゃんは、幼なじみのあーちゃんと再会する。ふみちゃんは従姉妹の千津ちゃんと付き合ってたけど、彼女が男の人と結婚するというのでフラれたばかりだった。千津ちゃんを想って泣いているところにハンカチを差し出してくれたあーちゃん。「ふみちゃんはすぐ泣くんだから……」昔と変わらず優しい幼馴染に、ふみちゃんは恋に落ちる*1――というストーリーが、古都・鎌倉で展開される。単行本は全8巻。2009年にはアニメ化も果たし、こちらも評価が高い。


雑誌「ユリイカ」では志村貴子デビュー20周年を記念して総特集が組まれている。作家関係者によるお祝いイラスト、評論、対談、ロングインタビューなど内容は様々。



その中で、惜しくも幻に消えた映画と、志村貴子的なものがアイドルグループAKB48乃木坂46の世界観に与えた影響を語っているのは、高橋英樹。彼女たちのMVや映画を多数制作している映像作家である。THE YELLOW MONKEYの「第5のメンバー」としても有名らしい。

(…)アイドルの映像でもそうですが、女性像を描いた作品って、男性目線で“男の願望”をただただ具現化したような作品がやはり多い。俗にいう「こんな女の子が本当にいてくれたらいいな」願望というか(笑)。もちろんそれはマーケティング側の意見を取り入れた結果でもあるのだとは思いますが、志村さんの作品はそういう視点からも自由な女性像が描かれていると感じたんです。

実際いろいろなところに企画を持ち込んだんですけど、最終的にはストーリーの骨格がまありはっきりしないということと、それからこれは本当に残念だったのですが「BLは受けるけどGLは……」というような、そういう括りで考えられてしまうこともあって結局、映画化は難しかったんです。(…)


実写映画の企画はポシャったものの、「MdN」という雑誌で乃木坂の生駒里奈と「青い花」の姉妹作「淡島百景」がコラボしたのも、そういった流れから来ているそうだ。AKBや乃木坂というプロジェクト全体で志村貴子的なものを志向していこうというコンセンサスがあったわけではなさそうだけど、高橋が言うには、直接的ではなくとも乃木坂は志村貴子的なものに強く影響されているのではないか、という気がするらしい。


志村貴子的なものがAKBや乃木坂の映像面に与えた影響

(…)そのときにキーワードとして何度か出てきたのが『櫻の園』(吉田秋生原作、中原俊監督/一九九〇)という映画で、要するに女子高生同士の恋愛感情を描いた、男性の入っていけない世界。そういうものをなんとか映像化できないかということはもともと言われていたので、それもあって『青い花』に行き当たったのかな。だから映像化自体は実現するに至らなかったとはいえ、ミュージックビデオのなかでその練習、とまではいかないですが着想が漏れ出る瞬間というのはありました。たとえば二〇〇八年の「大声ダイヤモンド」と翌年の「10年桜」」「涙サプライズ!」という曲のミュージックビデオでは、実は『青い花』と同じ「松岡女子高等学校」という名前の架空の高校を舞台にしているんです*2

(…)ただAKBと志村さんの組み合わせは若干無理くりなところもなくはなくて、そこで体得した志村さん的な完成がいっそう活かされたのは、のちの乃木坂46のときでした。乃木坂がデビューして初めての映像作品を監督したんですけれども、それが某お菓子会社のCM(編注:『明治手づくりチョコレート』)で、(…)実際にメンバー――特に生駒(里奈)ちゃんや生田絵梨花――を見た瞬間に「わ、リアル志村貴子の世界じゃん!」と思ったんですよ。というのは、AKBというのは私立のお嬢さんよりもどちらかというと公立女子校の雰囲気だった。公立およびインターナショナルスクールに近いイメージで、そこからタータンチェックのような意匠も出てきたのですが、それは志村さんの世界とはやはり微妙に違ったんですよね。
それでいつか私立のお嬢さん系のものも撮りたいと思っていたところに乃木坂に出会ったので、そのCMと、すぐ後に撮った二枚目のシングルおいでシャンプー」のドラマ版ミュージックビデオはモロに志村さんの世界観の影響を受けているかな。特に「おいでシャンプー」出だしのところ、生駒ちゃんが階段を走って怒られるシーンから始まるんだけど、あのシーンは『青い花』第二巻(八五頁)のあるシーンそのままなんです。(…)

(…)たとえばAKBのミュージックビデオを作っていたとき、ドラマ部分のシナリオも僕が自分で書くわけですが、すると秋元さんに「女子高生はこういうことしゃべらないでしょ」と言われてるんです。シナリオはいいけどこの台詞は監督の言葉だと。(…)作詞家としての言語感性と共に、志村さんに通じるものの見方があると思う。(…)自分のなかの内なる少女性みたいなものにアクセスして、それをそのつどの歌詞とうまく組み合わせて掬い上げなくちゃいけないんだけど、やはりなかなか難しい。そういうときに、志村さんの描く少女の立居振る舞いというか佇まいをパラパラと読ませていただきつつ参考にしていました。そういうことがあったので、仮に秋元さん自身は志村さんをご存知ではなかったとしても、乃木坂の立ち上げのときには志村さんの世界観が間接的に、しかし強く影響することになかったのではないかという気はしています。

(…)アイドルに即して言うと、AKBというのは明らかに競争の世界で、ある種の男性的な原理のもとで戦わないとやっていけない部分が多々ある。それにはやはり正直、賛否はあるだろうと思います。そういうものから少し乖離したいというのが乃木坂とか、志村さん的な世界への需要が高まっている理由なのかもしれません。(…)

(…)あの志村さんの画の白さ、余白、木漏れ日などの光、というのはすごく誘惑なんですよね、映像を撮る側にとって。つい自分でも再現してみたくなる。でもライティングの趣向という点で模倣しても、決して同じものにはならないだろう。(…)
自分が撮った作品で少しは近いことができたかな、と思えたのは乃木坂46生駒里奈と伊藤理華が出演したショートムービー「あわせカガミ」(十一枚目のシングル『命は美しい』に収録)だと思います。『青い花』の藤ヶ谷女学院の建物のモデルとなった鎌倉文学館はそれまで撮影許可が下りなかったんです。でも、この撮影のとき再度問い合わせをして見たら、建物までの坂とベランダなら撮ってもいいと言われまして。(…)撮ったときは、設定だけ書いてお二人に渡してあとは全てアドリブ、僕もあまりカメラを見ずに撮れたものをあとからつなぐやり方をとりました。(…)こういう撮り方から紡ぎ出される女の子のフリーな感じのほうが志村さん的なのではないかという気もするんです。(…)


高橋が「青い花」を読み込んでることは端々から伺えるけど、納得できない点もある。男性的なものと女性的なもの、公立と私立、現実と虚構。こういった両極の「あわい」を描くのが志村作品の特徴であって、高橋の読みはどちらかに偏りすぎるというか。


青い花」でもお嬢様学校「藤ヶ谷女学院」に通うあーちゃんと進学校の「松岡女子高等学校」に通うふみちゃんがいて。物語の中で主にフィーチャーされるのは藤ヶ谷のほうだけど、AKBには公立高のほうが似合うという考えがあったから、高橋は「松岡女子」のほうを引用したんだろう。MVを観ればそれは納得できる。「青い花」作中でも度々松岡女子のふみちゃんの友達が藤ヶ谷を羨ましがる場面はあるけど、でも物語は殊更にその二つを対比する方向にはいかないのですよ。別に、だからといって氏がうまく「青い花」を映像化できないかとか言うつもりはないけど。


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志村作品を映像化するとしたら

(…)普通は漫画を読むと「このシーンのここのところを映像化したい」と思ったりするものですけど、志村さんの場合はそういう感じでもない。むしろ映像化しようのない内面描写が好きなんですよね。(…)

(たとえば女性監督で誰の「青い花」なら見てみたいかと問われて)うーん、たとえば山戸結希さんとかかな……本人はやりたいと思っているのかな。山戸さんとは何度か会ったこともあるし、よく『青い花』の話になるんですよ。山戸だったらアリかもしれないけど、でも山戸の映画になっちゃうかな(笑)。


一度は頓挫した「青い花」の映画化だけど、このインタビューの終盤で高橋は改めてチャレンジしたいとも述べている。

(…)やり方としては先ほど話した「あわせカガミ」のときのように、闊達に女優たちに任せてアドリブも含めて掬いあげていくかたちにするか、演劇のようにもっと一つずつ様式美的に構築していくか、あるいはそのふたつを混ぜるか。いずれにしても女優もしくはアイドルのもっている自意識とか自立意識というものをできるだけ尊重して、こちらの演出意図をどこまで透明化して作っていけるかがポイントだと思います。あとはクオリティコントロールとして、肉体関係とか子ども時代の失禁とか生理的な部分は絶対に省いてはいけないですね。ことさらエロく描く必要はないんだけど、それが前提にないとダメだろうと。(…)


百合物の実写映画と云えば、「マリア様がみてる」は結構嫌いじゃなかったんですよね。あれは高橋が言うところの「演劇のように様式美的に構築」していった例だとは思うので、「青い花」に合うかというと疑問が残るけど。


でも、「青い花」は作者本人が言うように志村なりの“ドラマチック”“王道”を目指した作品なので、他の作品よりかはなんぼかやりやすいような気がする。だめっすかね。


*1:正確には幼い頃の初恋に火がついた

*2:以下全て、強調部分はブログの筆者によるものです

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