周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

とあるラノベ世代が読んだ平井和正 「月光魔術團」「超革中」「ボヘミアンガラス.st」「幻魔大戦」

SF作家・平井和正(1938-2015)が亡くなってから一年以上が経つ。それまで近いようで遠かった作家だったけれど、訃報を機に幾つかの作品を読了した。

 

唯一、狭義のラノベレーベルから刊行された「月光魔術團」

これは逝去より随分前の話だけど、わたしが最初に触れた平井作品は、確か「月光魔術團」だったと思う。伝奇アクション小説「ウルフガイ」の犬神明が女の子になって還ってきたナンデ!?、という触れ込みの小説。何故平井作品の中で特に有名でも評価が高いわけでもないこのシリーズだったかというと、単に電撃文庫という自分に近しいレーベルから刊行されていたからだ*1

 

わりとえろえろな内容だったと思うけど、実はよく覚えてない。他の電撃作品と雰囲気はそこまで変わらなかった気がする。人狼少女というモチーフにドラマ化もされた篠原千絵の漫画「闇のパープル・アイ」を連想したりした。あっちは豹だけど。

 

 


ライトノベル第一号?「超革命的中学生集団」

その次は「超革命的中学生集団」。これは、「ライトノベルめった斬り!」の中で大森望ライトノベル第1号認定していたから手に取ってみた。大森が言うには本作は、

 

  • サービスシーンがあって、
  • 楽屋オチ・内輪向けネタのオンパレードで、
  • 大人が子どもに向けて書いてる感じがしなくって、
  • 登場人物が棚ボタ式に能力を手に入れて……

 

という要件を満たしてるからラノベの第一号だ、ということで、そこら辺については反論する気はないんだけど。でも多分に箇条書きマジック感あるというか、どっちかというとあのファンタジア文庫黎明期の怪作「東京忍者」のご先祖様、という感じでわたしは楽しみました。あ、それとSF作家仲間を作中に登場させる内輪ネタは「幻魔大戦」でもやってたな。

 

d.hatena.ne.jp

 

「きまオレ」と「ボヘミアンガラス・ストリート」と 「神様家族

2000年代半ばにMF文庫Jから刊行、アニメ化もされた「神様家族」というラブコメがあって。

 

 

当時、著者の桑島由一が作品の中でボヘミアン~をパクっている、という疑惑がインターネット上で流れ、平井氏も公式サイトでコメントを出すくらいの騒動にはなったのだけど。

結局騒動自体はいつの間にか鎮静していて。

でもこの件で知ったボヘミアン~のタイトルは覚えていて、逝去後にそういえば、と思いだして読みだしたのだった。

本作は「きまぐれオレンジロード」にインスパイアされたSFラブコメであり。同時に日本で初のオンラインノベル*2らしいのだけれど。

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巻末広告にこんなのが載ってたけど、「アスキーオンラインノベル」が本作以外にどんな作品を出版していたかは判然としないのであり。
ぐぐってみてもインターネットにはインターネット以前の情報は少ないわけで。

内容はといえば、平行世界ネタとかやがてこの世界から消え失せ誰の記憶からも忘れられる彼/彼女とかそういうのをぶちこんだ美少女ものとしては桑島由一どころか鍵ゲー、それ以前のYU-NOより先んじているようにも感じられ。

80年代には岬兄悟「魔女でもステディ」、そして勿論「うる星」「きまオレ」があったとしても小説としてはまだ珍しかったんじゃないかと思うわけで。

ハーレム物で複数のヒロインと関係を結ぶ理由として「主人公の精神が分裂してるから」というのは面白かったかもしれず。

あるいは平井先生のこと、整合性糞食らえの自動筆記で執筆してるから分裂してるように見えるというのは否定出来ないところはあるけれども。

主人公とヒロインが事に及ぼうとすると何故か必ず邪魔が入るというお約束に高次の存在が介入してるからという設定なんかも興味深く。

どうでもいいけど「きまオレ」でも使われたこの北の国から」喋り、小説で読むと一層ムズムズするな、と思った「ボヘミアンガラス・ストリート」の感想であった。

 

 

そして、「幻魔大戦

角川版は全20巻で、3巻までは壮大なサイキックバトルものだったのが、4巻以降は延々主人公を教祖とする宗教団体創設記が続いていく。すごい強い主人公が力を振るうのを厭う、っていうそれ自体はるろ剣にしろトライガンにしろオーフェンにしろ、我々の世代はもう慣れっこなわけですよ。でも、ここまでそれを頑なに貫き通した作品ってのも珍しいんじゃないしょうか。これ読むとちゃんとエンタメとして成り立たせようとしてた不殺が、単なるアリバイ作りにも見えてくる罠*3。や、まあ、最強主人公に向ける周囲の盲目的な称賛を宗教じみてると評する声はあるけど、本当に宗教団体を作っちゃうとは、という、これはこれで「うわさのズッコケ宗教法人」(那須正幹)て感じでエンタメ的に面白かったし、鬼気迫る感じに圧倒されはしたんだけど、同じような自己啓発セミナーが毎巻しつこくしつこくしつこく繰り返されるのは辛かった。

 

しかしこれ、最終巻の発行がS58年2月25日、劇場版アニメの公開が同年3月12日で、原作の完結とアニメを同期させるっていうのをこの時代にやってたのね。

 

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完結って言ってもいわゆる第1部完だしあとがきで早速第2部開始が予告されてるけど。終盤の展開を目の当たりにしていた読者は、3巻までの展開を元にした劇場版をどう思ったんだろ。ていうかこれ、すごい時代に寄り添った売り出し方をしてた印象だったのが、作中時期は15年前の、1967年だったので驚いた。多分最初の漫画版準拠だからなんだろうけど……

 

あ、それと、これゆったら人格疑われそうだけど、差別主義お嬢様萌え、みたいなのはあるよなあ、とルナ姫見てて思いました。初期のレモンちゃん@ゼロ魔とかもそうよね。

 

 

あとがき

他にも「ウルフガイ」とか「ゾンビハンター」とか読みはしたけど、またの機会に。そゆえば平井和正と現代のラノベの繋がりとして、あとがきのありかたを指摘する声があるけれど、作品の内容は勿論社会情勢なんかにもばりばり切り込んでいく平井先生と違って、ラノベの場合軽い近況報告か編集との漫才か自分という作家のエンタメ的なキャラづけとかがメインで*4。その点は遠い所にある気がするなあ、というこれをもってあとがきにかえて終わりです。

 

*1:初出はアスキー

*2:パソコン通信時代なので「web」小説ですらない・1994年発表

*3:面白いかどうかは別です

*4:上遠野浩平とか例外はいる