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周回遅れの諸々

90年代にオタクとしての青春を過ごした人のブログです

NHK大河ドラマ化が似合いそうなファンタジー女四代記 上遠野浩平『無傷姫事件』

使命感から、あるいはもっと個人的な理由から、何か大きな物事に立ち向かう女の子というのは、どうしてもこうもわたしたちの心を揺さぶるんだろうか。

 

継承。つながれていったのは力か夢か幻か――魔導世界でも類を見ない、兵数と武装に頼らない軍事国家。その支配は明快にして簡潔。冷徹にして賢明。優雅にして鮮烈。凡庸にして惰性。
相反する性格を持つ苛烈な時代を駆け抜けていった四つの意志。その辺境の小さな国は、世界を揺るがす大戦の中で如何にして独立を守ったのか。
誰にも傷つけられないから、無傷姫。そう呼ばれた少女たちに科せられた宿命と秘密は彼女たちを守ったのか、或いは害したのか。
人々に愛され、歴史に軽んじられ、真理に疎んじられた姫君たちが滅びるとき、浮上するのは欺瞞と虚偽か、それとも遠い日の約束か――。

 

この小説の主人公は「無傷姫」なる称号を持つお姫様たちだ。これといった産業も文化もない、農作物もまともに育たない小国を、しかし動乱の時代に四世代に渡って統治した、彼女たちの生き様が綴られている。………歴代の姫には何の共通点もない。「無傷姫」の名の由来となる、いかにもファンタジーらしい超常的な力を持っていたのは初代だけ。その後の歴史は姫として、ひいては国家としては撤退戦に過ぎないと言えなくもない。しかしその撤退戦がまたいちいちかっこいいんだ。

 

初代の薫陶を受けた二代目には特別な能力はなかったが、精一杯に務めを果たそうとした。二代目から三代目は世襲だったが、それも血統の正当性などというものとは全く関係なかった。三代目は生まれた時から高貴な身分で浪費家と思われていて、でもそれが他国に対してちっぽけな小国を実際以上に大きく見せることに繋がっていた。彼女は国家の外に民衆の生きる道を見出そうとしたが、結局不慮の死を遂げてしまった。四代目に至っては幼い頃に孤児院から適当に見目がいいだけの娘が連れてこられ、姫として擁立させられた。覚悟も何もないままお飾りのお姫様を、お飾りなりにそれなりにきちんと務めてはいた彼女だが、それとは関係なく暗雲が忍び寄ってきていて……

 

 封建制の君主とか企業のトップとかいうのは初代が立ち上げ二代目が発展させ三代目が~なんて話はよく聞かれる。でもそれも彼らが最高権力の持ち主だからあれこれ言えるわけで、無傷姫は女王ではなくお姫様である時点で、たとえ実質的に国を統治していたとしても、自由がない。拠って立つ何かがない。後ろ盾となる誰かがいない。受け継がれる使命もない。もし何かが継承され、そのために彼女らが行動しているように見えたとしたら、多分それは使命のほうがお姫様たちの自己実現にくっついてきた、というほうが正しい。自分の思うことのために能動的にお姫様として振る舞う彼女らは、だからこそとても気高く映る。

  

『無傷姫事件 injustice of innocent princess』上遠野浩平|講談社ノベルス|講談社BOOK倶楽部

 

上遠野作品というと既に終わった出来事にどう折り合いをつけるかという話が多くて、おおむねそれらの過去はその物語のみで終わらず別作品にはみ出してる、という印象が強かったのだけど、この小説は始まりから終わりまでほぼ全てが書かれていたと思う。いつもは腹八分のところ十分まで食べきったような満腹感を覚えた。

 

ライトノベルで「お姫様」を主人公にしたものとしては「七姫物語」が思い出深い。あちらが戦乱の時代に各都市がお姫様を擁立して~という横の広がりを見せていたのに対し、こちらは縦軸の物語だなんていうカテゴライズが脳内で為されたりも。というか今さらの話だけど、上遠野作品も大概女性の方が強いというかかっこいいよな。今まであんましキャラクターに性差ってないと思ってたけどこの人に関しては。

 

 

 (電子版最終巻は文庫未収録短編を収録)

 

逆に先日語った織機綺なんかは彼女たちと比べて同じ所をぐるぐる回ってるようで「弱さ」を体現したキャラクターにも思えるけれど、それは「無傷姫」が70年以上の時間を一冊に圧縮しているからで、お姫さまたちも織機と同じ時間的スケールで見れば同じくらい葛藤してたんじゃなかろうか。

 

sube4.hatenadiary.jp

 

この「戦地調停士」あるいは「事件」シリーズを読んだのは、実は最初の「殺竜事件」以来となる。前作の記憶はほとんどないのだけど、今回読了して、ファンから「こっちに比べてブギーポップは構成がゆるい」ってゆわれてることに納得してしまった。前作から7年かかっただけあって? ガチガチの構成が組まれている。ブギーの方を評して話が前に進むでも、過去編に突入するわけでもないこのシリーズは先生の「昨日こんな夢見たんだけどどう思う?」みたいな恐ろしくフワフワした読後感に酔いそうになるなんて言われるわけだ。ほぼ1年に1作出してるブギーと、7年のブランクが空いたこちらとの執筆にかかった日数の違いが如実に~とかで片付けてもいいけど、それ以上の何かがあるような気もする。

 

てなわけで「無傷姫事件」、最近上遠野づいてない人にも初めて上遠野作品を読むって人にもおすすめです。えーと、以上。

 

 

 

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