周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

角川春樹、徳間康快、西崎義展……出版・エンタメ系偉い人を題材にしたノンフィクションを読む

オタクとして、そこそこ年を重ねてきた。ということは、わたしが子供の頃から好きな物を作り続けてきてくれた人たちはもっと年を取り、あるいは業界で揺るぎない地位に就き、あるいは既に自伝の一冊や二冊書くようになったということだ。これは別に狭義のクリエイターだけでなく、出版社の編集者やプロデューサーなんかも変わらない。それで、ここ2、3年ほどでそういう類のノンフィクションを何冊か読んでみました。

牧村康正+山田哲久『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』 

手塚治虫率いる虫プロからアニメ関係のキャリアをスタートさせ、「ヤマト」のプロデューサーとして有名になった西崎義展(1934-2010) の波乱万丈の一生を描く。

 

金女麻薬ヤクザと絵に描いたようなスキャンダラスな内容だけど、自分がこれまで読んできた自伝評伝と比べるとその人生から何らかの思想やストーリーを著者が読み取ろうとするようなところは表面的には少なく(著者がその時々での西村の考えを類推することはある)、ある意味淡々と取材内容を纏めてると言えるかも。

 

ヤマトが劇場版の前売り券や先着入場者に色んな特典をつけたり、ファンクラブを「公式」が積極的に活用したりと、内容だけでなく広報などの面でもオタク商売の祖となっているという話は面白かった。で、そのヤマトの「復活編」が同時期の、単行本を特典としてつけたワンピ劇場版に惨敗するという。

 

うろつき童子」がタイトルすら出てこないのはHENTAI MANIAとしてがっかり。話題が話題だけに避けたのかとも思ったんだけど、実写AVを製作してたって話は出てくるんだよな。クレジットでは企画のみ参加となってるし、そんなに深く関わってなかったのかネタになるような話がなかったのか。

 

 


佐高信『飲水思源 メディアの仕掛人徳間康快

徳間書店といえば、現存する最古参のアニメ雑誌であるアニメージュを創刊し、スタジオジブリトップクラフト)設立にあたって出資、当時の邦画の興行記録を「もののけ姫」で塗り替え、田中芳樹の「銀英伝」を刊行し……と、オタク産業を語る上で欠かせない出版社だ。しかし、現在は大角川が強すぎることもあり、その存在感はいまひとつ薄い*1

 

アサヒ芸能出版社から事業を引き継ぎ徳間書店を設立した徳間康快(1921-2000)の生涯を綴った本書にはそういうところの記述を期待していた。のだけれど、オタク関連に文面をあまり割いてないのは、まあ徳間はそれだけの存在ではないのだからいいとして、著者の、読売出身の徳間社長と縁がある渡邊恒雄憎しが強すぎて? 半ばナベツネ批判本みたいになっていたのはちょっと……。言い過ぎか。なお徳間書店の柱のひとつであるゴシップ誌「アサヒ芸能」は、朝日新聞系列とは全く関係ない。読売出身の社長が設立した徳間書店が発行するアサヒ芸能という紛らわしさな。

 

  

角川春樹『わが闘争 不良青年は荒野を目指す』

自社製作の映画などと絡めたメディアミックスで、父・角川源義が設立したお固い出版社である角川書店をエンタメ産業の雄に急成長させた、角川春樹(1942-)の半生記。成功者の自伝なんて悪意を持って見れば大概ノンフィクション俺ツエーとして読めちゃうもんだけど、本書は極めつけ。UFO目撃体験など、スピリチュアルな方向にも飛ばしている。歴彦「さすがですわお兄さま!」 出版に関わる人が比喩ではなく言葉通りの意味で「本という媒体自体、読み捨てのエンターテインメントになった」と言い切るのはすげえな、と思いました。

 

前述の西崎同様70年代後半~80年代に時代の寵児としてもてはやされ、徳間も含め共同で映画を企画したこともあったとか。というかこの辺りの三人、政治家とヤクザが話に何かと絡んでくるような……。エンタメであってもマスメディアってそういうもんか。

 

 

富野由悠季『∀の癒やし』

Vガンダム」で精神的に限界を迎えた富野由悠季監督(1941-)が、「∀」を作り終えるまで。この面子の中では完全にクリエイター側の人なのでやや浮いているけど、富野アニメは富野監督が一から十まで制作工程を担っているわけではない、というみんな知ってはいるけれどよく忘れられることを実感できたのは収穫だった。 原作の出版元でも制作スタジオでもプロデューサーでも監督でも脚本家でも、自分が知ってる人(あるいは会社)がすなわち制作の実権を握ってると思いがちな人多すぎなんですよ。

 

 

辻信太郎『これがサンリオの秘密です。』

サンリオの創業者であり現社長である著者(1927-)が自ら説く経営論と人生哲学。要約すると、仕事は面白く/従業員を幸せにすることがまず大切/社長業は忍耐/(赤字になっても)株は悪くない/(赤字になっても)映画事業も悪くない/(赤字になっても)ピューロランドはもっと悪くない、という感じ。

 

ピューロランドで家族連れのお父さんがつまんなそうにしてたので女性キャストをミニスカートにしたよ! というエピソードは有名だけど、「社長、ステージで海の中を演出したいんですが……」「インパクト出すためにモデルさんに上半身スケスケの布着せようぜ!」というのは初めて聞きました。

 

キティさんの元となる動物を決めるにあたってのアンケートでリス、ひよこ、アヒル、うさぎなどは幼児人気は高かったけど大人に受けないので除外した、というエピソードを読んで、そゆえば子ども向け商売的なことはこの本一度もゆってないなーと思った。あんまし対象となる層を限定してないというか。そういうところが、アニメが大友にも大人気の「おねがいマイメロディ」や「ジュエルペット」、ひいては「SHOW BY ROCK!!」のはっちゃけかたに繋がってるのかもしれない。あ、「リルリルフェアリル」も毎週楽しみに観させていただいています。

 

 

あとは

星海社のサイトで連載されている、大塚英志の「角川歴彦とメディアミックスの時代」が、「俺の待ち望んでたものがついに!」という感じで毎回楽しく読んでたのだけれど、もう更新が随分止まってるんですよね……。

 

sai-zen-sen.jp

 

他にはこれ↓とか、スタチャがなくなって年内引退予定らしい大月俊倫にもそろそろ往年のことを語ってほしいなーとか。

 

 

*1:自社の映画制作事業の要である「大映」を角川に売却したのが象徴的