周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

釣り竿とテグスとお菓子で彼女を釣ろう 吉村夜『キミにもできる! 女の子一本釣りマニュアル』

 ごく普通の公立高校に進学したフツメンこと富津浦信司は、なっちゃんこと桜木なつきに恋をした。でも今まで女の子とつきあった試しはない……。そこでフツメンは親友のイケメンこと池田祐樹に相談した。いわく、彼女を作りたいなら釣りに限るとのこと。そうと知ったからには行動だ! 釣り道具一式を揃え釣りにチャレンジするが……。釣り竿で女の子を釣れちゃう、ちょっぴり不思議な世界のファンタジック学園ラブストーリー!

 

 釣りを趣味にしている女の子が狙い目、とかそういうのですらなく、文字通り釣竿にテグスで結んだお菓子やゆるふわキャラクターグッズで女の子を釣るファンタジー。女の子をポケモンに見立てた竹井10日の『ポケロリ』みたいな魚の擬人化ものかと思いきや、普通に暮らしててそこら辺歩いてる女の子がある日突然フィッシュされるカオス。

 

 

これだけでもえっスマッシュ文庫(奇抜なラノベを出すことで有名なレーベル)?って感じなのに、後半では鳥やら星やら釣り上げてて何がなにやら。 

 

魔法少女もののアニメあるだろ。あれのおまけつけきお菓子なら、もっと食いつきがいいんじゃないか?」「確かにそのエサなら幼女の食いつきがいいかもしれない。でも、ぜんぜん狙っていないゲドウが食いついてしまう可能性を考慮したか?それだと、大きなお友達が食いついてしまう危険がある」

 


  そんな感じで内容としてはかなりPTAにお見せできない感じなんだけど、本作ではゲームブック方式の「キミは~した」という読者に語りかける二人称を地の文で採用してて(主人公は他のキャラに「フツメン」と呼ばれる)、なんというか、いい意味で作り物っぽく、初期設定のどぎつさを緩和してる気がした。

 

著者の吉村夜は2000年にファンタジア大賞に準入選を果たし、デビューした。……と、ラノベ作家としてはそれで正しいのだけど、実はそれ以前に児童文学畑で『メルティの冒険』などの仕事歴がある。

 

ラノベデビュー作の『魔魚戦記』は「全長3千キロのイトマキエイ型エイリアンが天然ボケな女の子に求婚しに来るというファースト・コンタクトもの。無闇矢鱈にでかいスケールととぼけたキャラが魅力で、子どもの奔放な想像力がそれを実現する巨大な力に直に結びついて解決に至る辺りがとても楽しかったし、基本的にはコメディなのに(普通はこういう作風ならぼかすと思うんだけど)描写の上ではわりとあっけらかんと人死にを描いている辺りがいいスパイスになっていた。

 

ただこのデビュー作は、2巻しか出てないのに2回イラストレーターが交代するという紆余曲折を経た末に頓挫。ラノベでのその後の仕事は、処女作のイマジネーションを感じなかったり、厨二マインド全開の話なのに最大公約数的な児童文学のイメージそのものに健康的で毒が薄くて食合せが悪いように思ったり、ちょっとこちらの期待にそぐわないもので。児童文学ではそもそも作品を発表することがなくなり、読者としては遠ざかりつつあったんだけど、『女の子一本釣り』は『魔魚戦記』で嗅いだ匂いを感じることができて嬉しかった。

 

 

惜しむらくはカオスといえば聞こえはいいけど悪く言えばごちゃごちゃしてる点。エモノは女の子だけに限定するか、なんでもアリにするならタイトル変えるかしてほしかった。でもこのインパクトの強さは捨てがたいかな……。それと、釣り小説としては、ルアーの選定で大体の勝負がついちゃってるパターンが多かったので、もっとエモノとの駆け引きが欲しかった。

 

 

 ※この文章は2013年11月に書いた感想を加筆修正したものです