周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

アイカツおじさん武道館への道~JOYSOUNDでアイカツ! 曲を歌ってはいけない

アイドルアニメ「アイカツ」シリーズの楽曲は、女児アニメとは思えないクオリティだという。音楽に疎い私には他の作品と比べてどうっていうのはよく分からないのだけど、自分が好きな曲に可愛いものより大人っぽいかっこいいものが多いという実感はある、かな。巷でゆわれてるところのクオリティの高さってそういうものではないとは思うけど。

私が好きなアイカツ

まあ大体聞いてもらえば分かると思うし、音楽的素養皆無なので、それぞれについての音楽評論的な文章は先人の文章がたくさんあるのでそっちを読んでもらうとして。


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「アイドル活動!2013」はこのアニメの代名詞とも言える曲のロックアレンジ。アイカツで好きな曲、大体「かっこいい」「ファンタジー」「かわいい」とカテゴライズできるのだけど、これはわからん……いちごちゃんのスイングロック衣装が可愛いから? アニメでの颯爽とした登場がかっこよかったから?


「Pretty Pretty」は、下地紫野の演技によってどっちかというとカタい印象のある二代目主人公の・大空あかりの、「もう嫌い! 泣いちゃうから!」とか、本編では聞いたことのない甘い声がたまらなかった。


あとは香澄姉妹補正で「Summer Tears Diary」とかアニメのMV込みなら*1Du-Du-Wa DO IT!!」や「Lucky Train」なんかも譲れない。

*1:アイカツデータカードダスと呼ばれるアーケードゲームとアニメでMVが異なる

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なつかしの異世界転生・召喚:不由美とロジャーの「魔性の子」 異世界は遠きにありて思ふもの

アメリカのSF作家ロジャー・ゼラズニィの著作に、Changering(1980)というファンタジー小説がある。赤子の頃、神話的な異世界と20世紀の地球で互いに「取り替え」られた、二人の男をめぐる物語である。邦題を『魔性の子』という。

強大な魔力を持ち、長年に渡ってロンドヴァルに君臨した魔王デットが、不意討にたおれた。魔王の血を継ぐただひとりの赤児は、すんでのところで命を助けられ、老妖術使いモーの手で、遠い昔に魔法が忘れ去られた世界、すなわち地球の技術者の赤子と取り替えられた。ふたりの子供は何も知らず、すくすくと育ったが、運命の影は密かに忍び寄っていた。


魔王の息子であるポールは地球で、技術者の息子であるマークは異世界で、それぞれ義理の両親に育てられた。彼らは魔力と科学技術という、自分たちの育った世界では異質な力を持っていて、それは一種の才能だったが、うまく周囲に適応できない要因ともなっていた。やがてマークの科学技術は異世界に災厄を及ぼすようなものへと変わり、彼を止めるためポールは生まれ故郷へと誘われる。


お話の構造は、ヨーロッパの伝承「取り替え子」に貴種流離譚を絡めたようなものだ。主人公とは別に異世界に召喚された人物を配置することで、主人公のオルタナティヴな可能性を示唆する。これは例えば渡瀬悠宇の「ふしぎ遊戯(1992)でも見られたものだけど、本作では別の世界に流されるという状況自体で対比を生み出す。



マークははっきり言って貧乏くじを引かされたキャラである。ポールの代わりに異世界に連れてこられ、村人たちの生活を便利にするために自動車を開発してもその技術は理解されず。神話的な世界に科学技術の粋を凝らした天を衝くような摩天楼を建て、機械の兵士たちに武装させて孤独な王と成り果ててしまう。唯一の理解者であった幼なじみの声も届かない。


ポールは、物心つく前に「取り替えられた」男として、それでもマークと分かり合えたかもしれなかった。マークの幼なじみは異邦人としての二人の共通点を指摘し、また恐れてもいる。しかし結局は実父ゆずりの魔法を、マークの帝国に向けることになってしまう。



ゼラズニィの『魔性の子』からタイトルを取ったと思われるのが、小野不由美魔性の子(1991)だ。タイトルと異世界トリップものというだけならまだ偶然かなとも思ったけど、小野自身が影響を受けた作家としてゼラズニィの名前を挙げてるし本文中に「取り替えっ子」への言及もあるので、まあ確定なのかなと。自分の著作と同じタイトルの小説があるので読んでみようってなった可能性もあるけど。以下は海外でのインタビューから。

私は本を書き始めたすぐ後に、C・S・ルイスのナルニア国ものがたりロジャー・ゼラズニイのアンバーの九王子を知り、その中に私がたどり着きたいと努力している種類の理想的なファンタジー小説のシリーズを見出した事もありますね。


http://shirouto.seesaa.net/article/124576955.html


小野の『魔性の子』は、和製ファンタジーの代表作十二国記の序章的な位置付けにある。現在刊行中の完全版でははっきりとシリーズの中に組み込まれているけど、元々は独立した一冊として刊行されたものなので、片方を知らなくとももう片方を楽しむのに支障はない。

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なつかしの異世界転生・召喚:異世界トリップもののどん詰まり 『幻夢戦記レダ』から『覇壊の宴』へ 

異世界自衛隊が活躍する」
「『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』だ……」
「エルフが奴隷にされたりする」
「『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』だ……」
「政治、経済、軍事、その他社会的な風刺もたくさん盛り込まれてる」
「『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』だ……」
「主人公は異世界の支社に左遷された、しがないサラリーマン」
「『覇壊の宴』じゃねえか!」


ということで、連載第2回は日昌晶「覇壊の宴」(全2巻)を取り上げたい。


sube4.hatenadiary.jp


上記した通り、自衛隊FTの人気作「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」を、2000年時点で先取りしていた小説でもある。



あらすじはこうだ。原油を始め地下資源は枯渇寸前で、環境汚染も進んでいた地球。そこに降って湧いたように、「新世界」と呼ばれる異世界へのゲートが発見される。地球側の企業はこぞって人員を送り込み、原油、鉄鋼、ウランなどを採掘しまくった。また東京都を含む自治体は、大規模なごみ処理施設を異世界の各地に完成させもした。一方で、地球人類と酷似した知的生命体が築いていた中世ヨーロッパ風の文明は、観光地としても人気を博した。


……だが、それも長くは続かなかった。元々の政情不安に加え、地球側のやり口は現地住民との間に当然の軋轢を生んだ。地球側でも現地の文明を一顧だにしない侵略には批判が高まったのか、新世界への自動車などの輸出を規制する高度文明化抑制条項、二酸化炭素排出規制条項などが結ばれたが、抜け道はいくらでも存在する。国連は治安維持のためPKFを派遣したものの、これはかえって逆効果になっている節もあった。他にも地球側の原油価格が大幅に下落したことによる中東の過激派の流入絶滅危惧種のクジラやマグロを元々の生態系を無視して新世界の海に放流しようとする政府を批判する環境保護団体、長寿命からその身体を医薬品として売買されるエルフ、新世界からやってきて歌舞伎町で立ちんぼする亜人の女性などなど、問題は山積みである。


主人公鈴木和夫は、新世界の王国「デロナト」の言語検定準一級を取得していることだけが取り柄の、食品会社に勤めるサラリーマン。上司の愛人に手を出したことで、新世界にある社の有害廃棄物処理場に左遷されてしまう。国境を超えて有害廃棄物を移動及び処分させてはならない、でも異世界ならいいんでしょ! というグレーゾーンの商売で、社の本業ではないが莫大な利益をあげている。鈴木がいるのは、あくまで常駐社員を置かなければならないと法で定められているためで、社員は彼一人だけ。体のいい? リストラである。彼に目をつけたのが、ラースター王女。彼女は鈴木という現地邦人の保護を名目に、PKOで派遣されてきた自衛隊を他国との戦争に駆り出そうとする。当然、憲法九条を盾に一旦は断られるのだが……。


長々と説明したのは、この小説の最大の面白みは舞台設定と無数に散りばめられた小ネタにあるからだ。また鈴木くんは平凡なリーマンであるものの、この物語は群像劇の色が濃く、戦車の砲弾と魔法が飛び交い、血湧き肉踊る、楽しい楽しい戦記物だったりもする。地球側の技術を借りたラースターの切り札が、現地人には免疫のないインフルエンザウィルスを搭載したミサイルというのも気が利いている。一方では、地球側を接待するために、現地住民がランパブもどき(ただし接待されるのは女性でする方は男性)を開催したり、ゴルフ接待の代わりにドラゴン狩りを行ったり。

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『ライトノベル史入門 ドラゴンマガジン創刊物語』 獅子王、ザ・スニーカー、NewTypeなどとの比較の中で

富士見書房*1が発行するライトノベル雑誌『ドラゴンマガジン』は1988年に創刊され、今年30周年を迎える。『スレイヤーズ』や『オーフェン』、『フルメタ』などが連載されてきた、ファンタジア文庫の旗艦雑誌である。



それを記念した特集の中で、『フルメタ』の作者・賀東招二は、こう語っている。

そのころテーブルトークRPGを趣味でやっていて、ドラゴンマガジンって聞くと、アメリカにそういう名前のRPG全般を扱っている雑誌があったんです。なので、あーそれの日本版なのかなっていうふうに勘違いしてました(笑)そういえば、築地さんもおなじこと言ってたかな?「あードラゴンマガジンの日本語版出たのかー」って、本屋で手に取ってパラパラ見たら全然違ってて、なんじゃこりゃって棚に戻したのは覚えてる。


賀東が述べているのは、米のTSR社が1976年から2007年にかけて発行した雑誌のことのようだ。……この話は、インタビュアーにも特にツッコまれることなく終わる。一方で、『ドラゴンマガジン創刊物語』においては、創刊責任者の小川洋がこんな裏話を披露している。

そうして作った企画内容を角川春樹さんに持って行ったら、「いいんじゃないか。雑誌名は『ファンタジア』がいいと思うんだ」って言われたんです。だから『月刊ファンタジア』という雑誌名で準備を進めつつ、今度はそれを角川歴彦さんに見てもらったら、「こんなんじゃダメだ、判型はA4版、雑誌名は『ドラゴン』がいい」と言われて、「えー、カッコ悪い」と思う面もあったんですけど、当時『D&D』をやっていた新和が『ドラゴンマガジン』という専門誌を出していたし、色々調べたんです。で、どうやら『ドラゴン』の版権は新和でなく学研が持っているようだと。だからそれをわざわざ買って、雑誌名を『ドラゴンマガジン』にしました。

後にお家騒動に発展してメディアワークスを生んだ角川兄弟の確執のことを思うと、色々想像させられるものがある


wikipediaによると、新和の『ドラゴンマガジン』は、先に賀東が挙げたTSR社の『ドラゴンマガジン』にあやかってつけられたものらしい。ただこの書き方だと資本関係などはないようだ。とはいえ、『ドラゴンマガジン』という雑誌は三つ存在し、しかもこれらは些細ながらつながりがあった。まあRPGに関連するものとしてはすぐ思いつきそうな誌名だし、興味ない人からすると「だから何?」ってなエピソードだけど、こういうのも研究者の大事な仕事だよなあと、この事実を掘り出してきた著者に感心する。

ドラマガの前にドラマガあり、ドラマガの後にもドラマガあり


本書は、『ドラマガ』の創刊に至る経緯、創刊後数年の推移、当時の若者の読書を巡る状況などを探るものである。著者は『ライトノベルよ、どこへいく』の山中智省。新聞・雑誌など数多の文献における「ライトノベル」という言葉のあり方を辿った良書だった。



関係者への豊富なインタビューが『ドラゴンマガジン創刊物語』の特徴で、


などの貴重な証言が収録されている。


この手の評論では、とにかく当時対象がいかに画期的だったかを語りがちだ。『ドラマガ』が生んだ最大のヒット作『スレイヤーズ』を取り上げる言葉も同じで、ラノベ評論を読むと、だいたい文芸の歴史の中でいきなり登場したような書き方をされている。神坂一の作風に多大な影響を与えた作家として、火浦功に言及されることは滅多にない。


しかし著者は、むしろ他誌との比較の中で、『ドラマガ』の新しさを見出そうとしている。そこで重要なのが、『ドラマガ』以前にも『ドラマガ』は存在した、という視点である。

*1:ある時はKADOKAWAの子会社、ある時は一部門

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なつかしの異世界転生・召喚:神坂一「日帰りクエスト」 遊び人LV.1、週末は異世界で

この素晴らしい世界に祝福を!」について、担当編集者が「現代版『スレイヤーズ』」と評したことがある。なるほど、ファンタジーRPGのお約束をとことんいじるという点で言えば、「このすば」を始めとしたなろう系の作品群は、1990年代に一世を風靡したライトファンタジー「スレイヤーズ」(正確にはその外伝)に通じるものがある。でも私はそれを聞いて、「同じ神坂作品でも異世界トリップだったらスレイヤーズより日帰りクエストだろ!?」と思ってしまった。



「日帰りクエスト」全4巻は、1993年から1995年にかけてスニーカー文庫から刊行された。「スレイヤーズ」「ロスト・ユニバース」に比べるとやや影が薄いけど、神坂作品のベストに挙げるファンも多い。


主人公は、ごく普通の――平凡な日常に嫌気が差して異世界に召喚されることを本気で待ち望んでたことと、アレな性格以外は――ごく普通の女子高生ムラセエリ。ある日、念願叶って彼女はついに異世界に召喚される。そこは、竜人(ギオラム)と呼ばれる亜人による侵略が進む王国だった。

「これよっ!」
彼女はその場でガッツポーズを取った。
「あたしはこーゆーシチュエーションを待ってたのよっ!」
魔道士は、ただぼーぜんと、そんな彼女を眺めている。
「毎朝の通学ラッシュもっ! 塾も来年の受験戦争も、やがてやって来る就職もっ!親の小言もうっとーしー担任も、これでぜぇぇぇぇんぶさよならよっ!」


ここまで前向きに現実逃避する主人公というのも結構珍しいんじゃなかろうか。その後、これから始まるだろう大冒険や王子様とのロマンスを想像して、胸を弾ませるエリ。しかし実はこの召喚は、「どんなのが来るか分からないから、最初はとりあえず当たりさわりのない奴を呼び出して向こうの世界の話を聞いてみよう」という理由によるもので、彼女は伝説の勇者でもなんでもなかった。このままでは話を聞いたら、即地球に返還されてしまう! そう感づいたエリは、召喚者を舌先三寸で脅して、毎週日曜の決まった時間には必ず自分を召喚することを約束させる*1

*1:週休二日制が普及してる現代なら「一泊二日クエスト」とかになったんだろうか……

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